発酵鶏糞について

発酵鶏糞の肥料効果

発酵鶏糞には、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの多量要素のほかに、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素などの微量要素も含まれ、作物に対する総合的な養分供給源になる。 これらの要素は有機態、あるいは無機態として含まれ、窒素のように主として有機態として含まれる成分は有機物の分解とともに作物に利用可能な形態に変化し、徐々に作物に利用される。 カリウムのように主として無機態として含まれる成分は速効的に作物に利用される。 発酵鶏糞が土の中で分解するときに発生する炭酸ガスは作物の同化作用を促進する。 また、発酵鶏糞には、作物の生育を促進するホルモンやウリカーゼなどの酵素が含まれている。

発酵鶏糞と化学肥料との効果の違いは

1. 肥効の遅効性

発酵鶏糞も化学肥料と同様に作物に養分を供給するが、その効果が徐々に現れることが化学肥料と大きく異なる。 発酵鶏糞を連年施用すると、分解されにくい有機物が土壌中に蓄積され、これから供給される養分量はしだいに高まっていく。このような累積効果は化学肥料には見られない。

2. 土壌の団粒化が進む

発酵鶏糞を土壌に施用すると、発酵鶏糞に含まれている有機物は微生物によって分解されるが、微生物によっても分解されにくい有機物が土壌中に残り、これが腐植になる。腐植は土壌の粒子と粒子を結びつけて土壌の団粒化を進める。 土壌の団粒化が進むと、団粒と団粒の間に比較的大きな隙間ができて、土は軟らかくなり、耕し易くなる。 そして、作物の根が伸びやすくなる。 また、団粒間にできた隙間は過剰な水を排水し、通気性を良くして、作物の根からの養分吸収・水分吸収が高まり、作物の生育を良くする。 団粒の内部には微少な隙間もあるので保水性も維持される。 このような発酵鶏糞による土壌の改良効果は化学肥料の施用では得られない。

3. 土壌の生物性を改善する

発酵鶏糞を施用すると、これを餌にして土壌中にはミミズ、ダニ、トビムシなどの土壌動物の活動が盛んになり、発酵鶏糞は細かくなる。したがって、発酵鶏糞は微生物による分解を受けやすくなる。 発酵鶏糞が施用されると、発酵鶏糞に含まれる有機物が餌になって、土の中の微生物の数が増える。 土の中の微生物が増え、活動が盛んになると、施用した発酵鶏糞だけでなく、これまでに蓄積されていた有機物の分解も促進される。これをプライミング効果(起爆剤的効果)と呼んでおり、この効果によって窒素、リンなど多くの養分が土の中に放出される。

4. 土壌病虫害の抑制が期待されている

発酵鶏糞の施用によって土の中の微生物の多様性が高まり、作物の病虫害が減ったという例が報告されている。例えば、発酵鶏糞の施用でトマト青枯病、キュウリつる割病、ダイコン萎黄病の発生が抑制され、発酵鶏糞の施用で作物に害を与える線虫の数が減ったという報告がある。

5. 土の保肥力が高くなる

発酵鶏糞の施用によって土の養分(アンモニウム、カリ、カルシウム、マグネシウムなど)を保持する力が増える。それは、土壌中に有機物が蓄積するとともに土の陽イオンを保持する力(陽イオン交換容量=CEC)が増えるためである。このようにCECが高くなると、肥料成分は雨水によって洗い流されにくくなり、土の保肥力が高まる。

6. リン酸のききめを増大させる

我が国に広く分布している火山灰土壌や酸性土壌には活性のアルミニウムが多く含まれており、それによって作物の根に障害が出たり、施用したリン酸がアルミニウムと結びついて、リン酸は難溶性となり作物に吸収されにくくなる。 しかし、このとき発酵鶏糞が施用されれば、発酵鶏糞に含まれている腐植酸、有機酸、糖などが活性のアルミニウムと結びついて、いわゆるキレート化合物をつくり、活性アルミニウムの害作用を抑える。そのため、発酵鶏糞の施用はリン酸肥料の効果を増大させる。

使い方

1. 稲作  300~500kg/1000㎡

有機肥料の中でも、稲作における肥効については、水田では硝酸態窒素が脱窒されやすく、化学肥料の代替として期待できるのは窒素濃度の高いのが、発酵鶏糞である。 発酵鶏糞の化学肥料代替量は概ね全窒素含量から2%を差し引いた分が目安になる。 発酵鶏糞は、1 t /10 a 施用で窒素約30~35kgの肥効が期待できるので、それ相当の化学肥料を削減できるが、肥料効果を期待して利用する場合は定植前1ヶ月前より近い時期に施用する必要があり、還元障害を起こさないように十分鋤きこんで土中で発酵させておくことが望まれる。

2. 根菜類  800kg/1000㎡

根菜類は条聞に持ち肥、イモ類は株間にドサッ

(根菜類)
ダイコン・ニンジン・ゴボウ・カブなど直下に根を伸ばすものは、根から離れたところに持ち肥で隠して使う。こうした野菜は二条撒きがよい。 ウネの中央に溝を掘り、鶏糞を入れて埋め戻し、平らにしたウネの両肩に種を播く。そうすれば、根が伸びる直下に鶏糞がないので、素直な根がまっすぐ伸びる。 たとえば、ダイコンが肥料の影響で二股になったり、極端に曲がることもない。 あの太い白い部分から横に細い根が伸び、鶏糞肥料倉庫から、ほしいだけの栄養を吸う。前作を片づけたら、すぐにダイコンを播いたりする忙しい人にとって、持ち肥はよい方法といえる。

(イモ類)
ジャガイモは、50㎝間隔で植えた種イモの中間に、茶碗山盛りぐらいを浅く入れる。 その鶏糞の肥料成分によって異なるが、だいたい窒素2%程度のものであれば、これぐらいが目安になる。収穫のころには、このドカッと入れた鶏糞の固まりの中にも周囲にも、網を張ったようにイモの根が絡み付いている。 ただし、化成肥料よりも生育がゆっくりになるので、春ジャガを水田につくり、五月中に田植えがあるような地域では鶏糞が使えない。 秋ジヤガなら問題ない。同じく株と株の中間に鶏糞を入れることができるものにサトイモがある。種イモの元に大量に入れ込むと、根が肥焼けして濃度障害を受け、地上部がいじける。したがって、植え付けた中間にドッサリ埋めておく。さらに、追肥でも株一元に撒いてから土寄せすると効果的である。

3. 葉菜類  1000kg/1000㎡

葉菜類は全面施用

葉ものは播種することが多い。播種の七日前に全面施用・土壌混和しておく。コマツナやチンゲンサィ、ホウレンソウなどは比較的込んだ状態で播いたり、植えたりするので効果的だ。タマネギも同じく全面に撒く。 ただし、あまり大量に撒くと病気になりやすく、緩んだタマネギになるし、夏を過ぎると腐りやすい。ソラマメはあまり込んで播かないが、やはり全面に撒く。その方が手聞はかからない。 ソラマメは肥料も多く求めてくるので、ある程度多く撒いておく。 ホウレンソウは窒素4%程度の乾燥鶏糞であれば10aあたり3OOkg程度でよい。ただし、あまり毎年使っていると土が硬くなってしまうので、注意が必要だ。

4. 果菜類  1000kg/1000㎡

果菜類は株から離して施用

キュウリやナス・ウリ・カボチャ・ピーマンなどは植えた後、株と株の中間や、株から離れたところに鶏糞を埋め込む。広さが許せば苗から1mは離して埋めたい。 植え付けた後で割り振りを変更する場合にも、かなり融通がきく。後からゆっくり作業ができるメリットもある。ただし施肥時期は、植え付け後、数日以内にする必要がある。 根は思っている以上に早く伸びる。キュウリなどは鶏糞のあるところに根が伸びてくるのだが、根のあるところに鶏糞をやると、障害が出てしまう。

5. 果樹

果樹類では遅効きの心配無用、石灰の補給にも

果樹は、窒素成分が必要以上に供給されると、果実の色つきや糖度に悪影響が出るので、肥料成分に富む鶏糞はあまり好まれない。事実、ミカンやブドウといった果樹にはあまり鶏糞を使わない。とくにミカンには御法度が慣例である。しかし、そんな中でもうまく鶏糞を利用する方法はあるはずだ。 たとえば、発酵鶏糞で温州ミカン一樹あたり15kgを撒く。 なかなか起こすことはできないので、鶏糞はそのままになる。樹園地では石灰が少ない傾向にあるので、このような方法であれば、遅効きがない鶏糞はかなり有効に使える。 鶏糞の遅効きの部分は施用1トン中にわずかに2kg程度なので、まったく問題ない。 鶏糞は三月の春肥に使うのがよさそうである。